当財団の見解

大阪公立大学への人権資料の寄贈と今後の方向

 公益財団法人大阪人権博物館(以下、当財団)は、2020年6月に大阪市との裁判で和解に至り、2022年を目途として再出発を図ることを表明しました。これを機として当財団は休館の措置をとりながらも博物館活動を推進することになりましたが、同時に所蔵する多くの貴重な人権資料を将来的にわたって保管、展示などに活用するため、最も効果的な再出発の場所、運営の内容と方法などについて検討を進めてきました。そして独立した建物による自主的運営、他の機関・団体との複合的な施設による機能的役割などを模索してきましたが、経済的困難によって多くの解決すべき課題が山積していることが明らかになりました。
 顧みますと当財団は財団法人として1982年12月に設立され、1985年に登録博物館として大阪人権歴史資料館が開館しました。また1995年12月に大阪人権博物館と改称し、同時に常設展示のリニューアルを実現して“人権に関する総合博物館”としての社会的役割を果たすようになりました。さらに2005年12月に2度目の常設展示リニューアルを実現し、2012年4月には公益財団法人に移行しました。そして35年間にわたる博物館活動によって総利用者数は約165万人を数え、社会的差別撤廃と人権確立に大きな効果をもたらすことによって、国内のみならず国外からも高い評価を受けてきました。このような当財団の歴史と成果を継承することは、非常に重要な課題であると考えています。
 時あたかも2022年4月に大阪府立大学と大阪市立大学が統合され、新しい日本有数の総合大学として大阪公立大学が開学しました。大阪公立大学は大阪府立大学と大阪市立大学の歴史と伝統を継承し、国際的な視野を射程に入れた日本における最大規模の公立大学として、今後における本来的な存在価値である研究と教育を大きく発展させる可能性を有し、今後における社会的な役割と貢献の重要性が多方面から期待されています。
 そこで当財団は貴重な社会的共有財産としての人権資料を活用する場所として大阪公立大学が最も適切であると考え、大阪公立大学との話し合いを始めました。その理由の第1は、当財団が所蔵する人権資料が大阪公立大学に寄贈されることによって、未来に向けて確実に保管され、次世代に継承できるからです。第2は、人権資料が大阪公立大学で展示に活用されることによって、大阪府民、大阪市民をはじめとして多くの人びとに対する人権啓発を基礎として、大阪公立大学が果たす社会的な役割と貢献を広く発信することができるからです。第3は、人権資料を研究と教育などに活用することによって、大阪公立大学が“知の創造拠点”としての存在価値を高めていくからです。第4は、当財団の人権資料が大阪公立大学に寄贈されることによって、人権資料の保管、展示、研究、教育などに関する機能と役割が、持続可能な形態と方法で確保することができるからです。
 かくして当財団は大阪公立大学に対し、2022年8月26日に正式な提案を申し入れました。その第1は、大阪公立大学が長年にわたる当財団の博物館としての歴史と成果を尊重・継承し、2025年度以降を目途に貴重な人権資料の寄贈を受け入れることによって、保管、展示、研究、教育など広く活用することです。第2は、当財団が人権に関する多くの団体と個人に対して寄付金を募り、資金面も含めて大阪公立大学に対して可能なかぎり協力・支援することです。
 その結果、大阪公立大学は当財団が所蔵する人権資料の重要性を確認したうえで、当財団の提案を基本的に理解して前向きに受けとめ、大阪公立大学として学術資料受入検討委員会を設置し、今後における保管、展示、研究、教育など人権資料の効果的な活用方法についての課題や条件などの整理・検討を始めました。そして2023年4月から大阪公立大学と当財団の間で協議会を設置し、2025年度以降を目途とした実現に向けて2024年度には結論が得られるよう協議することで合意しました。
 しかしながら当財団の人権資料が大阪公立大学に寄贈されることによって、当財団の社会的役割が終わるわけではありません。大阪公立大学において人権資料が保管、展示、研究、教育において有効に活用されるためには、当財団の継続的な協力と支援が必要であることは言うまでもありません。また当財団は、公益財団法人として内容と形態を変更して存続させ、社会的差別撤廃と人権確立のために、新たな社会的役割と活動分野を切り拓いていく予定です。
 これからも当財団は大阪府および大阪市に対して必要な協力と支援を求めながら、大阪公立大学と誠実かつ真摯に協議し、大阪公立大学での人権資料の保管、展示、研究、教育における活用を実現するため全力を尽くしつつ、また同時に当財団を存続させて新たな社会的役割を模索していく所存です。つきましては、これまで当財団に協力と支援を惜しまれなかった多くの関係団体・機関、個人の方々に対しまして深甚の感謝を申し上げ、今後とも当財団の基本的な姿勢と方向に関しましてご理解いただき、より一層のご協力とご支援をお願いする次第です。

 2023年3月22日

 公益財団法人大阪人権博物館